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大阪地方裁判所 平成4年(ヨ)3375号 決定

債権者

新進商事株式会社

右代表者代表取締役

仙入龍二

右代理人弁護士

三木俊博

川村哲二

城塚健之

債務者

株式会社エドウイン

右代表者代表取締役

常見修二

債務者

リー・ジャパン株式会社

右代表者代表取締役

常見修二

右両名代理人弁護士

柚木司

石井和男

主文

一  債権者が債務者株式会社エドウインに対し、同債務者から別紙一記載1の契約内容で継続的にジーンズ製品(ズボン)の供給を受ける契約上の権利を有する地位を仮に定める。

二  債権者が債務者リー・ジャパン株式会社に対し、同債務者から別紙一記載2の契約内容で断続的にジーンズ製品(ズボン)の供給を受ける契約上の権利を有する地位を仮に定める。

三  債務者株式会社エドウインは、債権者に対し、別紙注文一覧表(商品名エドウイン)1ないし5記載の品番、サイズ、数量のジーンズ製品(ズボン)を仮に引き渡せ。

四  債務者リー・ジャパン株式会社は、債権者に対し、別紙注文一覧表(商品名リー)1ないし3記載の品番、サイズ、数量のジーンズ製品(ズボン)を仮に引き渡せ。

五  債権者の債務者らに対するその余の申立てをいずれも却下する。

六  申立費用は全部債務者らの負担とする。

理由

第一債権者の申立て

一債権者が債務者らから別紙二記載1、2の各契約内容で、継続的に衣料品の供給を受ける契約上の権利を有する地位を仮に定める。

二主文第三、四項と同旨

三債務者らは債権者に対し、債権者より注文のあった債務者ら製造の衣料品の出荷を停止してはならない。

第二事案の概要

本件は、債権者が債務者らとの間に衣料品の継続的供給(売買)契約があるとして、その契約上の権利を有する地位を仮に定めること、及び右契約または独占禁止法もしくは不法行為に基づいて債権者の将来の発注に対する出荷停止の差止め並びに右継続的供給契約ないしは個別売買契約に基づいて債権者が各債務者に対して発注した商品の仮の引渡しを求めた仮処分命令申立事件であり、その争点は、①債権者と各債務者間に衣料品(ジーンズ製品)の継続的供給契約が成立していたかどうか、②債務者らにおいて債権者が発注した商品の出荷を停止することが許されず、債権者が発注した別紙注文一覧表記載の商品の引渡義務があるのかどうか、③債権者の債務者らに対する出荷停止の差止請求権が認められるのかどうか及び④保全の必要性の有無である。

第三当裁判所の判断

一継続的供給契約の存否について

1  本件疎明資料に審尋の全趣旨を総合すると、次の事実が一応認められる。

(一) 債権者は衣料品の製造、卸販売及び小売販売等を目的として、昭和五二年一一月三〇日設立された資本金一〇〇〇万円の会社である。債権者代表取締役の仙入龍二は、債権者会社設立前の昭和三八年二月、八尾市北久宝寺において、「丸二商店」の屋号でジーンズ製品の小売店を開業して以来、昭和四八年ころまでに五つの店舗を取得し、兄弟や友人らとともに独立採算制でその経営にあたっていた。

(二) 債務者株式会社エドウイン(以下「債務者エドウイン」という。)は、繊維製品の製造販売等を目的として昭和四四年九月に設立された資本金二八〇〇万円(後、増資により五六〇〇万円)の会社であり、東京周辺に販路を有していたが、昭和四七年に大阪地区に進出を企て、大阪デビジョンを開設してこの地区における販路の拡大を図った。当時のジーンズ業界においてビックジョン等のメーカーが市場のかなりの部分を占めていたことから、大阪デビジョンの当時の責任者であった山田直人は、債務者エドウインの商品販売促進のため、大阪近辺のジーンズ製品の小売店にセールスに回っていた。山田が昭和四八年に仙入龍二の経営する店舗を訪問し、商談をまとめて以来、債務者エドウインと仙入龍二とのジーンズ製品(ズボン)の売買取引が始まった。そして将来にわたって仙入との取引が継続されることが予想されたことから、債務者エドウインに仙入の名が登録され、取引口座が開設された。また、山田は、仙入の兄弟や友人らが経営する前記の各小売店にも売り込みに行き取引を開始した。なお、当時の債務者エドウインは、大阪方面に販売先を確保することが精一杯で、必ずしも小売店にとって有利とはいえない取引契約書を小売店に要求するような余裕もない状態であり、仙入らとの取引においても基本契約書は作成されなかった。

(三) 仙入龍二は、ジーンズメーカーが小規模の小売店をあまり相手にしてくれないため、仕入れに苦労することがあり、またそのころ兄弟や友人たちが経営にあたっていたジーンズ製品の小売店を含めて、仕入れの窓口を一本化してはどうかと山田直人から勧められたこともあって、前記のとおり昭和五二年一一月に商品の仕入れの窓口会社として債権者会社を設立し、自ら代表取締役に就任した。(以下、債権者の代表取締役である仙入龍二を「仙入社長」という。)そして、債務者エドウインの了解を得て、取引口座も仙入個人から債権者に移行させることになり、昭和五三年一月二〇日に債務者エドウインに債権者の取引口座が開設され、以後、毎月二〇日締めの翌月末日現金払いの約束でジーンズ製品(ズボン)の掛売取引が開始された。債権者は、債務者エドウイン等のメーカーから仕入れたジーンズ製品(ズボン)等の商品を債権者の直営店で小売販売するほか、フランチャイズ店である仙入社長の兄弟らが経営する九つの小売店に卸売し、また債権者会社設立前から仙入社長の弟らと取引のあった尾崎義久の経営するジーンズ製品等の卸売兼小売店である「キャメル」にも卸売していた。

(四) 債務者エドウインの代表取締役である常見修二は、昭和六二年にリーブランドのジーンズ製品の卸販売会社である債務者リー・ジャパン株式会社(以下「債務者リー」という。)を買収して、その代表取締役に就任した。このように債務者エドウインと債務者リーは、その代表者が同一である関連会社であり、債務者エドウインの大阪デビジョン(営業部)は、債務者リーの営業部を兼ねている。なお、昭和六三年五月に、債務者エドウインからジーンズ製品の製造部門が分離され、新たに設立された株式会社エドウイン商事(資本金五六〇〇万円、代表取締役常見修二)がこれを担当し、以後債務者エドウインは、販売部門のみを担当することとなった。

(五) 債権者は、会社設立以来、債務者エドウインの大阪デビジョンより継続的にエドウインブランドの、また昭和六二年六月ころから債務者リー大阪営業部よりリーブランドの、それぞれのジーンズ製品(ズボン)の卸売販売を受けるようになった。債権者と債務者らとの間には現在においても継続的取引についての基本契約書は作成されていないが、債務者エドウインとの間では、仙入社長の個人商店との取引当時と同様に前記のとおり取引口座が開設され、前記の条件での取引を継続してきており、また債務者リーと間でも昭和六二年六月ころの取引開始当初から取引口座が開設され、債務者エドウインと同一の条件(ただし、後記のとおり掛率は異なっている。)での取引を継続してきている。

(六) 債権者と債務者らとの取引方法は、債権者から債務者らに対し、所定の書式に注文をするジーンズ製品(ズボン)の種類に従って、その数量を記入し、ファックスで送信すると、通常はその翌日に注文通りの商品を債務者らの岡山配送センターから出荷されており、これまで債権者の注文に対して特段の応諾の意思表示が行われたことはなかった。商品の在庫不足のために債権者が発注した商品の一部が出荷されない場合もあったが、その場合でも債務者らから特に通知はなく、入荷した商品を見て初めてそれが分かることになっていた。この場合、その商品が次回の発注の際にも必要であれば、次の回の注文書の数字に含ませて注文しており、特に再注文であると付記することはなく、逆に不要である場合には何らの意思表示もされなかった。なお、平成三年六月以降において、債権者の発注のとおりに商品の出荷がされなくなったが、これは後記認定のとおり、債権者と債務者ら間で商品の再販売に関する紛争が生じたことに起因するものであり、平常の状態とはいえないものである。

(七) 債権者と債務者らとの間の卸売価格(下代価格)は、末端希望小売価格(上代価格)に債務者らの定める所定の掛率を乗じて得られる金額となっており、具体的には、エドウインブランドについては六〇パーセント、リーブランドについては六二パーセントとされ、前記のとおりの支払条件で決済がされており、商品納入が先履行となっていた。ただし、平成三年七月一五日から債権者は、後記認定の事情からサイトを九〇日とする約束手形による支払いに変更したが、これについて債務者らが約束手形の受取を拒否して現金による支払いを要求するということはなかった。

(八) 債務者らは、後記認定のとおり、債権者からの平成四年六月一七日発注分以降の出荷を停止しているが、昭和六〇年から右出荷停止時(平成四年六月二〇日締分)までの年間取引額は次のとおりである。すなわち、債権者と債務者エドウインとの年間取引額は、昭和六〇年度が六三七万〇一三二円、同六一年度が三四四万三〇六〇円、同六二年度が四七六万三三八〇円、同六三年度が三五七万八二八〇円、平成元年度が九八九万一九三三円、同二年度が一七三六万三〇一四円、同三年度が三〇一九万八五〇四円であり、同四年一月から同年六月一七日の出荷停止時までは二二九七万九七〇九円である。債務者リーとの年間取引額は、取引開始時である昭和六二年六月二〇日締分から同年末までが一八二万七五七四円、同六三年度が四四二万二三九八円、平成元年度が七九九万五七六七円、同二年度が二一〇三万九九四八円、同三年度が二三四九万七二八〇円であり、同四年一月から同年六月一七日の出荷停止時までは一二五九万八四〇一円である。

2  右認定の事実からすると、債権者と債務者らとの間には、いずれも継続的取引についての基本契約書は作成されていないものの、債権者と債務者エドウインとのジーンズ製品(ズボン)の取引が、仙入社長の個人商店の時代に債務者エドウインからの勧誘により開始され、これが債権者に引き継がれたものであり、その取引期間も債権者の設立以来約一五年間の長きに及んでおり、その間に取引形態に変更はないこと、債権者の債務者リーとの取引も債務者エドウインとの取引が基礎となっていること、債務者らは債権者の注文があれば在庫切れの場合でない限り、これに応じて速やかに商品を出荷しており、一部商品を出荷しない場合であっても特段の意思表示はされなかったこと、本件取引の対象物件が「エドウイン」、「リー」という著名なジーンズ製品のブランド商品であること(この点は後記認定のとおりである。)、代金決済の方法も一貫して毎月二〇日締めの翌月末日現金払いというものであることが明らかであり、これらの事情からすると、債権者と債務者エドウインとの間においては昭和五三年一月ころ、債務者リーとの間においては、昭和六二年六月ころ、将来にわたり債権者から、債務者エドウインに対してその販売商品である「エドウインブランド」の、債務者リーに対して「リーブランド」の、各ジーンズ製品(ズボン)の供給を求め、債務者らは、これに応じて一定の代金をもってそれぞれのジーンズ製品(ズボン)を債権者に引き続き供給することを内容とする期限の定めない、いわゆる継続的供給(売買)契約が成立したものであり、この基本となる契約の下において、供給者(売主)である債務者らは、特別な事情のない限り、被供給者(買主)である債権者のする個々の発注に対して、これに応じなければならない義務を負う関係にあるものと認めるのが相当である。

そうだとすると、債権者と債務者ら間には、別紙一記載の契約内容1、2のとおりの各継続的供給契約が存在し、債権者は、債務者らに対して右の契約内容で継続的にジーンズ製品(ズボン)の供給を受ける契約上の権利を有する地位にあるということができる。

二債務者らの出荷停止の許否及び債権者に対する商品引渡義務の存否について

1  本件疎明資料に審尋の全趣旨を総合すると、次の事実が一応認められる。

(一) 平成三年五月中旬ころ、仙入社長らは、債務者らから供給されるジーンズのズボンの裾の裏側に、赤い丸で囲った×のマークが付けてあることに気付いた。その矢先の同年六月二〇日に債務者エドウインの第三営業本部取締役営業部長で債務者リーの取締役営業部長の地位にある前記の山田直人(以下「山田部長」という。)が、債務者エドウインの大阪営業部デビジョンヘッドの南恒雄(以下「南社員」という。)ととも債権者の八尾店を訪れた。山田部長らは、仙入社長に対して、同年五月初旬ころ、広島県のJR福山駅前にあるジーンズ製品の専門店から、債務者エドウインに対して、同社の商品がダイエー系列の安売店である「トポス」で廉価販売されているとして苦情を申し立ててきたため、商品に秘密の記号をつけて流通経路を調査したところ、債権者に卸売したジーンズ製品(ズボン)が、債権者の取引先であるキャメルを通じて、トポスに再販売されていることが判明したと述べ、今後、トポスに商品が流れないように、仲間の卸売業者に販売することを中止してほしい旨の申入れをした。この山田部長らの申入れに対して、仙入社長は、キャメルとは昭和五七年以来取引関係にあるうえ、同社がどこに再販売しようと自由であり、債権者が口出しできる筋合ではないとして、右の申入れを断った。

(二) 債権者は、同年六月一七日ころに債務者らにジーンズ製品(ズボン)の発注をしていたが、同月二二日になってもその入荷がなかったことから、債務者らにおいて出荷停止の措置をとったうえ、山田部長らが同月二〇日に債権者の八尾店へ再販売の中止要請に来たものと感じた。同月二六日、南社員が債権者会社を訪れ、キャメルへの再販売を中止するよう要請した。しかし仙入社長は再度これを拒否した。同年七月一日、顧客からの注文があったため、債権者の営業部員の絹川量久(以下「絹川社員」という。)が債務者エドウイン大阪デビジョン兼債務者リー大阪営業部(以下、合わせて「大阪デビジョン」という。)に赴き、倉庫から商品を出してくれるように頼んだところ、担当者の西本和興は、上から言われているので出荷できないと言ってこれを断った。仙入社長は、直接山田営業部長に電話して尋ねたところ、同部長は、エドウインブランド及びリーブランドは自分が出荷停止の処置をとった旨の返答した。

(三) 同年七月三日ころ、仙入社長が再び山田部長に電話で抗議したところ、同部長はエドウインブランドについては出荷停止措置を解除すると述べた。翌日には債権者が発注したジーンズ製品(ズボン)の入荷があったものの、リーブランドについては出荷停止のままであった。同月八日、債権者会社において、山田部長及び南社員と仙入社長らとの間で話合いがなされ、その席上、山田部長らは債権者がトポスに商品を流すのを止めれば問題が解決すると迫ったが、仙入社長は債務者エドウインの要求が独占禁止法に違反するものであるとして、これに応じず、話合いは平行線をたどった。しかし、仙入社長の抗議により、山田部長らは独占禁止法について勉強不足であったとして、勉強するために一〇日間の時間の猶予を求めるに至った。これに対して仙入社長は、商品さえ出してくれるのであれば、待ってもよいと返答した。翌日の同月九日、債権者が債務者リーに同年六月二二日に発注し、七月四日に再発注していたリーブランドのジーンズ製品(ズボン)の入荷があり、リーブランドについても出荷停止措置が解除された。

(四) 同月一五日、仙入社長は、大阪デビジョンの長岡営業部員を呼び、債務者らが集金にも営業のためにも来社せず、掛率の変更にも応じないでいて、一方的に出荷を停止したことを非難し、これまでの現金振込の方法を止めて、今度は対抗措置として業界で通常行われているサイト九〇日の約束手形での支払に変更するとして、毎月その取立てに来るようにと要求したところ、長岡はこれを了承して約束手形を持ち帰った。その後は、南社員が毎月約束手形を取立てに行くようになった。

(五) 同年八月三日、仙入社長と絹川社員は、債務者らとの取引量が相当増えているにもかかわらず、高い掛率に止められているとして、債務者らが取引額に応じて通常とっている掛率を適用するよう求めて、大阪デビジョンに赴いて、南社員に対してその旨を要求をした。しかし、南社員は、債権者の小売店舗において、その仕入量に見合うだけの一般消費者向けの固有の売場が確保されてないこと、すなわち売場構築ができていないとしてこれに応じようとしなかった。仙入社長らは、債権者は小売のみではなく卸売もしており、卸売に関して売場構築云々はおかしいとして、南社員の言い分を納得せず、話合いは物別れに終わった。同月末ころ、仙入社長は、南社員と再び掛率のことで押し問答をし、公正取引委員会へ行こうと言い出し、両名は大阪合同庁舎内の同委員会に出向いた。同委員会は、再販防止の出荷停止は違法であること、掛率に関してはメーカーと小売業との話合いで決まることであって、同委員会としては動けないことであると説明をした。同年一一月二〇日、絹川社員は商談のため大阪デビジョンに出向いた際、南社員に対して再び掛け率を下げるように求めたが、同人は債権者の仲間の卸売業者を通じてトポスで債務者らの商品が売られている間は掛率の変更には応じられないとして、これを拒否した。

(六) 前記認定のとおり、債権者らのジーンズ製品(ズボン)の総取引額は、平成元年以降大幅に増加しており、月別の発注量も同年一一月ころから徐々に増加し始め、債務者エドウインと債務者リーを合わせて月間の合計が同年同月ころ二〇〇万円を、同年一二月には三〇〇万円を、平成二年一二月に四〇〇万円を、平成三年一一月には九〇〇万円をそれぞれ超えるようになり、平成四年四月には、一〇〇〇万円の大台を超えるに至った。その間、債権者において債務者らに対する仕入代金の支払を滞るということはなかった。

(七) ところが、債務者らは、社内の経理部が、債権者との取引について、支払条件が現金から約束手形による支払に変更になったこと、債権者には店頭在庫がほとんどないこと、債権者から傘下の各店舗を訪問する必要はないと指示されたため店舗の確認ができないこと及び取引未決済残高が売掛残も含めて約三〇〇〇万円になったことを問題視したとして、月間取引高が一〇〇〇万円を超えた同年四月から、債権者からの発注に対して受注量(出荷量)を厳しく制限するようになった。しかし、これらの事情は何ら債権者に説明しないまま、同年六月一七日に至って、債務者らは債権者に対する出荷を全面的に停止した。

(八) 右出荷停止に対して、仙入社長は、同月二二日、山田部長に電話して尋ねたところ、同部長は、確かに出荷停止していると述べ、同月二六日に話合いをしたいとの申入れをした。同日債権者会社を訪れた山田部長と南社員は、仙入社長に対し、営業会議の結果として、同年九月一八日までは商品の出荷停止を続け、その時点でキャメルとの取引を停止していれば再度出荷に応じる、ただしこれまでの制裁として取引額は当分の間、年間六〇〇万円以内に抑えるとの条件を提示した。しかし、仙入社長は、このような条件は到底承服できないとして、これを拒否した。債権者は、債務者らに対して、同月三〇日、七月七日、同月一四日、同月二七日、八月一八日に、従前どおり、所定の書式によりそれぞれジーンズ製品(ズボン)をファックスで発注したが、債務者らからは何らの応答もなく、商品の納入もされなかった。債権者は、最終的に同年九月二日に、債務者エドウインに対して別紙注文一覧表(商品名エドウイン)1ないし5記載の品番、サイズ、数量のジーンズ製品(ズボン)を、債務者リー・ジャパン株式会社に対し、同一覧表(商品名リー)1ないし3記載の品番、サイズ、数量のジーンズ製品(ズボン)を、それぞれ発注した。

(九) 債権者への出荷停止前(最終は同年六月二〇日締分)に、債権者が債務者らに仕入代金の支払のために交付した約束手形(サイト九〇日)は、すべて期限までに決済されている。

2  右認定の事実に基づいて、債務者らのした出荷停止の許否及び商品引渡義務の存否について判断する。

前記認定のとおり、債権者と債務者らとの間にはジーンズ製品(ズボン)について期限の定めのない継続的供給契約が存在し、この基本契約に基づいて債権者が個別に商品を発注し、原則として債務者らにおいてこれを承諾する義務があり、通常は特段の承諾の意思表示を経ることなく取引が繰り返されていたことが明らかである。ところで商人間で、本件のように特定の種類の商品についての継続的供給契約が締結されている場合において、売主が買主からの発注に対して、これを承諾せずその出荷を停止することが許されるのは、買主側に支払遅延、支払停止等代金回収についての不安が存し、あるいは契約当事者間の信頼関係を破壊するような特段の事情がある場合等、売主側の出荷停止を止む得ないものとして是認される場合に限られ、そのような事情がないのに出荷を停止することは許されず、売主側は買主側からの発注を承諾のうえ、在庫商品を速やかに出荷すべき義務があるというべきである。これを本件についてみると、右認定の事情からすると、債権者は、現在に至るまで債務者らに対して仕入代金の支払を滞ったことがなく、平成三年七月一五日以降において現金支払からサイト九〇日の約束手形による支払に変更しているものの、これは債務者のした出荷停止に対抗するためにとった措置であって、債権者の資金繰り等経営状態に問題が生じたことによるものではないこと、この支払方法の変更については債務者らはこれを拒絶しないで毎月約束手形の取立てに来ていたこと、債権者が交付した約束手形はすべて期日に決済されていることが明らかであって、債権者の側に支払遅延あるいは支払停止等の信用不安があったとは認められない。また、右認定の出荷停止に至る一連の経緯からすると、債務者らのした出荷停止は、債権者が債務者らから仕入れたジーンズ製品(ズボン)を取引先であるキャメルに卸売したために、キャメルを通じてこれらが安売店のトポスへ流れ、トポスにおいてこれを廉価で販売していることから、このトポスへの商品の流通を阻止し、その再販売価格を維持するためにとった措置であることが明らかである。このような債務者らの行為は、公正な取引を阻害するものであって、債権者が、債務者らから仕入れたジーンズ製品(ズボン)をキャメルに卸売しないようにとの要求に応じないことをもって、これが債務者らの出荷停止を正当化する信頼関係を破壊する特段の事情に該当するものとは到底認めることはできないし、他に右の特段の事情に該当する事由が存在することの疎明がない。そうだとすると、債務者らの出荷停止は、止むを得ないものとして是認される場合には該当せず、許されないものというべきである。

そこで進んで、債務者らの債権者に対する商品引渡義務の存否について検討する。前記認定のとおり、本件紛争が発生する平成三年五月ころまでは、債務者は債権者からの発注に対して、当該商品の在庫があれば速やかにこれを出荷していたものであって、債権者の個々の発注に対する債務者らの承諾の意思表示は形骸化していたこと、債権者が債務者らに対して平成四年六月二一日以降九月一日までの間に発注したジーンズ製品(ズボン)で、後の発注書に記載しなかったものについては、従前と同様に発注を撤回したものであり、債権者が債務者らに対して現に発注している商品は、同年九月二日に発注した別紙注文一覧表のジーンズ製品(ズボン)のみであることが明らかであり、前記説示のとおりこの発注に対して債務者らは出荷を停止することは許されないことからすると、債務者らは、債権者に対し別紙注文一覧表記載の各商品をそれぞれ引渡すべき義務があり、債権者は、同表記載の商品については、債務者らの個々の承諾の意思表示をまつまでもなく、その引渡を請求することができるというべきである。

三出荷停止の差止請求権について

前記認定のとおり、債権者と債務者らとの継続的供給契約の内容は、電気・ガスなどの供給契約におけるような全体的に単一の売買契約が成立していて、個々の目的物について具体的に供給義務を負っているようなものではないことは明らかであり、また買主側が与えられた予約完結権を行使することにより個々の売買契約が成立し、売主に直ちに商品供給義務が生ずるというものでもなく、買主側の申込に対して売主側が承諾義務を負うに過ぎないものである。したがって、本件継続的供給契約関係の下では、債務者らは債権者からの個々の発注について、先に説示したとおり債権者側に支払遅延、支払停止等の代金回収についての信用不安があるか、あるいは信頼関係を破壊するような特段の事情がある場合でない限り、原則としてこれを承諾すべき契約上の義務を負っており、債権者は債務者らに対して、個々の発注に対して承諾を求めたうえで、当該商品の出荷を求めることのできる地位にあるということができる。そして、売主側である債務者らにおいて、右のとおり買主側の債権者に信用不安等の事情がある場合には、その発注に対して承諾を拒絶することを許さなければならないことからすると、これまでの取引において、債務者らの承諾の意思表示が形骸化していた場合であっても、将来の取引については、それが現実化した段階で、個々の発注に対する承諾の意思表示を求めたうえでなければ、当該商品の出荷を求めることができないというべきである。そうだとすると、債権者が債務者らに対して、衣料品(ジーンズ製品)というだけで、その発注時期、品名、数量が未だ特定しない商品について、債務者らの個別の承諾の意思表示を求めることなく、債権者と債務者ら間の前記認定の各継続的供給契約に基づいて、債権者が債務者らに対して将来に行う商品の発注に対する出荷停止の差止を、予め求める法律上の根拠はないといわなければならない。

次に、債権者は、債務者らの出荷停止が独占禁止法二条九項の不公正な取引方法についての公正取引委員会の一般指定(昭和五七年告示一五号)に定める単独の取引拒絶(同指定二)、再販売価格維持行為(同一二―二)、拘束条件付取引(同一三)、優越的地位の濫用(同一四)に該当する違法性の高い行為であるとし、このような場合には差止請求権が認められる旨主張する。前記認定の事実からすると、債務者らの行為が不公正な取引方法の禁止を定めた独占禁止法一九条に違反するといわざるを得ない。しかしながら、同法一九条に違反する行為がある場合について、同法二〇条一項は、公正取引委員会がその者に対して不公正な行為の差止等の措置を命じることができる旨定めており、このような同法の規定の趣旨からすると、同法一九条が私法上の差止請求権を定めたものではないことは明らかである。

また、債権者は、同法一九条に違反する違法性の高い行為は不法行為を構成するとしたうえ、不法行為に基づく差止請求権を被保全権利とする出荷停止の差止めを主張する。しかし、不法行為は違法行為から生じた損害の填補を図ることを目的とする制度であって、現になされている行為の差止めや将来に予想される行為の予防を目的とするものではないと解すべきであるから、債務者らの行為が不法行為を構成するとしても、その効果としての差止請求権なるものが実体法上認められない以上、これを被保全権利とする仮処分は許されない。

右のとおり差止請求についての債権者の主張はいずれも採用できず、債権者の債務者らに対する出荷停止の差止めを命じる仮処分命令申立ては、被保全権利の疎明がなく失当である。

四保全の必要性について

債権者は、債権者が債務者らとの間に継続的供給契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めること及び債務者らに対して別紙注文一覧表記載の各ジーズン製品(ズボン)の仮の引渡を求めているところ、債務者らはこれをいずれも争っている。

本件疎明資料に審尋の全趣旨を総合すると、債権者の全仕入れに対する債務者らの仕入れ割合は、過去三年をみると、17.7パーセント、二〇パーセント、三六パーセントと大きな比重を占めていること、債務者らが出荷停止した当時において、債権者が取り扱っているジーンズ製品(ズボン)は、ビッグジョン、リーバイス、エドウイン及びリーの各ブランドが中心であり、その占める割合は前二者が約三分の二であり、債務者らのブランドである後二者が約三分の一であるが、今後においてもエドウイン、リーの両ブランドのジーンズ製品(ズボン)の仕入量の増加が見込まれていたこと、大阪地区において、平成四年当時のジーンズ製品・カジュアル専門店の仕入先ランキングでは債務者エドウインが第一位であり、また売れ筋ブランドのランキングではエドウインが第二位、リーが第三位にそれぞれランクされていること、また同年一月当時におけるジーンズ製品(ズボン)メーカーの売上高ランキングでは、前記エドウイン商事が三八五億三四〇〇万円(推定)として第一位にランクされていること(なお、債務者エドウインの平成二年度の売上高は三三六億九五〇〇万円である。)等、エドウイン、リーの両ブランドは、業界で圧倒的なシェアーを誇る人気商品であること、債権者において、債務者らから入荷する以外には両ブランドのジーンズ製品(ズボン)の供給を受ける方法がなく、このブランドを販売できないことはジーンズ製品の小売兼卸売業者としての債権者の信用に重大な影響を及ぼすものであり、債権者の経営に相当な打撃を与えることになることが一応認められる。

右認定の事実に前記認定の債権者と債務者らとの間の本件各継続的供給契約の内容、効力を併せ考えると、債権者に現に生じ、かつ将来生ずることが予測される著しい損害を避けるためには、債権者に債務者らから別紙1の契約内容で継続的にジーンズ製品(ズボン)の供給を受ける契約上の権利を有する地位を仮に定め、かつ債務者らに対して別紙一覧表記載の各商品(ジーンズのズボン)の仮の引渡をさせることが必要であると認める。よって、右仮処分の必要性はいずれも肯認できる。

第三結論

以上の次第で、債権者の債務者らに対する本件各仮処分命令申立ては、債権者に各債務者から別紙一記載1、2の各契約内容で継続的にジーンズ製品(ズボン)の供給を受ける契約上の権利を有する地位を仮に定めること及び債務者らに対して別紙一覧表記載の各商品(ジーンズのズボン)の仮の引渡を求める限度で理由があり、債権者に、株式会社大阪銀行(鶴橋支店)との間に、債務者エドウインのために金一七五〇万円を限度とし、債務者リーのために金七五〇万円を限度とする、各支払保証委託契約を締結する方法による担保を立てさせて、右の限度でこれを認容し、その余の申立て(申立ての趣旨第一項のうち別紙二記載1、2の各契約内容中、商品についてエドウインブランド商品全般及びリーブランド商品全般との部分、並びに申立ての趣旨第三項の出荷停止の差止め)は、いずれも理由がないから却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官宮城雅之)

別紙一 契約内容

1 債務者エドウイン株式会社につき

商品 エドウインブランドのジーンズ製品(ズボン)

代金 債務者エドウインの決定する希望小売価格の六〇パーセント

支払方法 毎月二〇日締め、翌月末日現金払い

2 債務者リー・ジャパン株式会社につき

商品 リーブランドのジーンズ製品(ズボン)

代金 債務者リー・ジャパン株式会社の決定する希望小売価格の六二パーセント

支払方法 毎月二〇日締め、翌月末日現金払い

別紙二 契約内容

1 債務者エドウイン株式会社につき

商品 エドウインブランド商品全般

代金 債務者エドウインの決定する希望小売価格の六〇パーセント

支払方法 毎月二〇日締め、翌月末日現金払い

2 債務者リー・ジャパン株式会社につき

商品 リーブランド商品全般

代金 債務者リー・ジャパン株式会社の決定する希望小売価格の六二パーセント

支払方法 毎月二〇日締め、翌月末日現金払い

別紙注文一覧表〈省略〉

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